アパート・賃貸マンションの騒音トラブル、なぜ起こる?原因と未然に防ぐ対策を解説
- 賃貸経営ノウハウ
アパートなどの集合住宅に住んでいる人の多くが経験する「騒音問題」。近年はコロナ禍で在宅時間が増えたこともあり騒音問題は急増。過去には騒音が原因で一方的な恨みがつのり、上階の住人を切りつける事件まで発展してしまったこともありました。大家さんにとっても騒音問題は、退去や空室につながる、決して目を逸らせない大きな障害。賃貸経営をするうえで、トラブルを未然に防ぐためにも知っておきたい「騒音」とその対策について解説します。
アパートで発生する騒音トラブルの種類
(株)AlbaLinkが行ったアンケート※によると、マンションやアパートなど集合住宅に住んでいる人の8割近くが「騒音に悩んだ経験がある」と回答しています。騒音トラブルにはどのような種類があるのでしょうか。
アパート・マンションで起こる騒音トラブルの現状
同アンケートでは、最も多い騒音の種類は、「足音が響く」というもの。
「上の階に住む子どものドタドタ音が深夜まで続く」「子どもたちが寝る時間に、上の階で足音が響きイライラする」など、騒音を出す側・騒音に悩む側どちらにも「子ども」という言葉が入っています。大人は気を付けることができますが、子どもを静かに歩かせることは難しいもの。下の階の音は自分で聞くことができないため、なかなか気付けないことも原因として挙げられます。
それ以外にも「話し声がうるさい」「歌声がうるさい」や「宴会がうるさい」などといった声の騒音、「大音量の音楽」や「楽器」といったオーディオ系の騒音、「テレビ」、「掃除機・洗濯機」などの生活音が10位までにランクインしています。
騒音トラブルの対処法については、過半数が「管理人・管理会社に連絡」と回答しています。しかし2位には「何もせず我慢」、中には黙って「引っ越す」という人も。これでは管理会社も大家さんも騒音に気付くことができません。なぜかすぐに人が退去してしまう部屋は、実際に住んだ入居者にしか分からない騒音の問題が隠れている可能性もあります。
また、「直接注意する」、「壁・天井を叩く」といった、騒音を出している入居者のもとに自ら働きかける人も。こういった対処はかえってトラブルを大きくしてしまう危険性をはらんでいるため、注意が必要です。
騒音トラブルといえば、以前は深夜の時間帯に発生するケースがほとんどでした。しかし、コロナ禍でテレワーク化が進み、在宅時間が増えたことで、これまで気にならなかった昼間の生活音もトラブルの元となるケースも増加中。
そのため、部屋探しのときにも、防音性・遮音性を気にする入居者が多くなっているので、空室対策を考えている大家さんはそのあたりを意識してみると効果的です。
アパート・マンションの騒音トラブルはなぜ起こる?
もともと木造アパートは、SRCやRC造の建物と比べると遮音性能は低め。ただし、すべての木造アパートが音漏れしやすいという訳ではなく、物件による違いもかなりあります。古いアパートは、戸境壁(界壁)や床に遮音材が入っていなかったり、古いサッシを使ったりしていることから、遮音性が劣ることがあります。
また、間取りが騒音の要因となる場合もあります。パイプシャフトが居室内にあると、上階でお風呂やトイレを使ったときに水の流れる音が響いたり、隣戸のユニットバスが居室と隣接したりしている場合、隣人の入浴の音が気になったりといったケースが考えられます。
騒音トラブルにつながる音の種類
騒音対策をするにあたって、音の伝わり方や種類を把握しておく必要があります。住宅内で伝わる音として代表的なものに、「空気伝搬音」と「固体伝搬音(床衝撃音)」の2種類があります。これらはそれぞれ対策方法も違うため、知識としておさえておきましょう。
「空気伝搬音」とは、窓や界壁を通して空気の振動で伝わってくる音のことを指します。テレビの音や楽器を演奏する音、話し声などが当てはまります。空気の振動で音が伝わるため、カーテンや壁などの障害物が多くなるほど音は小さくなります。
空気伝搬音の遮音性能は、壁の透過損失を示す「D値」で表し、数字が大きいほど性能が高くなります。隣戸との界壁については、一般的な木造アパートはD30以下であることも多い(マンションがD45-50程度)ですが、共同住宅であればD40程度の性能は欲しいところ。これは日本建築学会が定める集合住宅の性能基準等級では、3級にあたります。
「固体伝搬音(床衝撃音)」とは、上階で人が歩いたり、物を動かしたりして床が直接振動し、下の階に響く音のことを指します。空気伝搬音と違って壁や床を厚くしても音は伝わってしまいますが、振動を吸収する建材などを用いれば、ある程度は音を和らげることが可能です。
固体伝搬音(床衝撃音)は下の階の音圧レベルを示す「L値」で表し、この数字が小さいほど遮音性能が高くなります。木造アパートはL70−75程度(マンションはL40−50程度)が一般的ですが、こちらもL60程度までは高めたいところです。こちらも前述の性能基準等級で3級にあたります。
防音対策は、それぞれの音源の特性を踏まえたうえで、以下の表にまとめた「吸音」「遮音」「制振」の3ポイントを適切に組み合わせることで、効果を高めることができます。
遮音 | 音の侵入や漏出を防ぐこと。 質量が大きくて厚い素材ほど遮音性能が高い |
吸音 | 音を反射させずに吸収することで、通過する音を減らす。 多孔質の素材が適切 |
制振 | 固いものが振動して音の伝搬を抑えること。 クッション材などで音の伝道を遮断 |
建物の構造や内装材の仕様によって音の伝わり方が違うため、同じ防音材を使っても効果に差が出ます。建物と防音材それぞれの特性と相性を知った上で、もっとも効果的な防音材を選び、正しく施工することが重要です。
鉄筋コンクリート造でも静かとは限らない!その理由は?
RC造(鉄筋コンクリート造)のマンションやアパートの方が木造アパートよりも防音性能に優れているイメージ、ありませんか?
確かに「空気伝播音」の遮音性能を比較したときに、壁の透過損失を示す「D値」で見ると(数字が大きいほど高性能)、隣戸との戸境壁(界壁)については、マンションが「D45-50」程度なのに対して、一般的な木造アパートは「D30以下」(壁内が空洞の場合は「 D20-25」程度 )と少なめ。
「床衝撃音(固体伝搬音)」についても、下の階の音圧レベルを示す「L値」で表したときに(数字が小さいほど高性能)、マンションは「L40−50」なのに対し、一般的な木造アパートは「L70−75」となっています。
壁が厚いなどの構造上、防音性に優れているのはRC造(鉄筋コンクリート造)とされており、空気伝播音は伝わりにくくなります。しかし、足音や家具を移動する音などの固体伝播音はRC造であっても伝わってしまいます。
また、RC造であっても、すべての壁がコンクリートになっていない場合もあります。壁に石膏ボードを採用しているケースもあり、入居者間の音が聞こえてしまうなど、期待していたほど遮音できていない、ということも起こりうるので、注意が必要です。
騒音トラブルになる音の大きさはどのくらい?
アパート・マンションで発生する音を「うるさい」と感じる感覚は人それぞれ。しかし、客観的にどの程度の音で騒音トラブル、ひいては法的に問題となるのでしょうか。
誰もが生活するうえで最低限出てしまう「生活音」そのものを規制する法律はありません。民事裁判で損害賠償の対象となるような「法的に問題となる騒音」とは、以下のような音を指します。
・深夜に集団で大騒ぎをしている音
・家の外まで聞こえるほどの音量で音楽を演奏している音
・明らかな嫌がらせで発せられていると判断できる音
普通に生活しているうえでは出ることのない、生活音以外の大きい音や故意の騒音が法的に問題となることが分かりました。それでは、生活音が原因で騒音トラブルになった場合には、どのように判断すれば良いのでしょうか。
実は騒音には「受忍限度」というものが定められており、これを超えた音量は騒音として認められる可能性が高くなります。「受忍限度」とは、「社会生活を営むうえで我慢するべき限度」のこと。受忍限度の基準は各自治体が設けている規制基準が目安となります。一般的に生活音と判断されるのは、40~60デシベルの範囲です。
40デシベルは図書館内くらいの静かさで、安眠するためには、40デシベル以下であることが望ましいとされています。60デシベルの目安は、洗濯機やトイレの洗浄音ぐらいの大きさで、声を大きくしないと会話ができない程度です。「うるさい」と感じるぐらいの騒音ではあるものの、生活をする中で瞬間的に出してしまうこともあるでしょう。それらを超える大きさの音が「受忍限度」を超えている、ということになります。
騒音トラブルが起こってしまったときの対処法と流れ
大家さんにとっても、騒音トラブルは重大な問題であることが分かっていただけたと思います。それでは実際に入居者から騒音についてクレーム等が発生した場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
まず必要なのが「貸主による現状確認」です。客観的に騒音の程度を把握するためにも、被害を訴えている入居者はもちろん、他の入居者にも状況を確認しましょう。
「いつから」「どんな音が」「どれくらいの頻度や時間帯で」「どこから」聞こえてくるのかを、分かる範囲で細かく、具体的に入居者にヒアリングしましょう。最初に被害を訴えた入居者の他にも同様の被害を感じている入居者がいるかどうかも確認しておきます。
万が一、被害を訴えている入居者が神経質すぎるケースも考慮し、その入居者には十分配慮しながらも全面的に鵜呑みにせず、先入観を持たずに現状を把握するのがポイントです。
入居者から聞いた内容をもとに、騒音についての注意をエントランスなどへの掲示(貼り紙)や、入居者全員に手紙として出します。音の特徴や頻度についても具体的に記載することで、迷惑をかけていると気付かずに音を出していた入居者も「もしかして自分が原因かも」と察知することができます。
掲示や手紙で騒音が改善されないようであれば、原因と思われる入居者に直接連絡を入れます。騒音について心当たりがないかどうか尋ねたうえで、改善してもらえるように依頼しましょう。
被害を訴えていた入居者へは、どのような対策を取るのか(取ったのか)の報告を行います。騒音の主と思われる入居者への改善依頼を行った場合はその内容や、改善に向けて取り組んだことをしっかりと伝えるようにします。この連絡を怠ると、クレームが感情的になってトラブルが長引いたり、最悪の場合は退去につながったりすることもあるので注意しましょう。
騒音トラブル発生時に注意すべきこと
騒音トラブルが発生すると、つい慌てて客観的な目線を欠いたり、誤った対処をしてしまったりすることがあります。騒音についてクレームが入った時に注意するべきことをまとめました。
入居者から騒音のクレームが届いた時点では、その内容が妥当なものかの判断はできません。騒音クレームの内容が一方的で細かすぎると感じた場合は、被害者が過敏であるケースも検討するなど、大家さんは常に平等で客観的な判断をするようにしましょう。判断の基準となるのは、やはり入居者へのヒアリングなど、具体的な現状把握です。
最初のクレームが発生した日時から、入居者へのヒアリング内容、実際にどんな対応策を行ったかを詳細に記録しておきましょう。通報者への報告はもちろん、訴訟などより大きなトラブルに発展した場合に、貸主としてやるべき対応を行ったかどうか残しておくのはとても重要です。
さらに、実際に発生している騒音のレベル計測なども行い、記録として残しておくとより万全です。いざというときのために、騒音測定器を持っている管理会社や大家さんもいます。
対応を誤ると事件に発展することもある騒音トラブル。管理業務を管理会社に委託している場合は管理会社に相談をしましょう。自主管理の場合も、トラブル対応に慣れた管理会社や弁護士など、日ごろから専門家に相談できるようにしておくと安心です。
騒音トラブルを防止するための対策
起こってしまってからでは、できる対応に限りがある騒音トラブル。騒音を未然に防ぐために、大家さんもあらかじめ対策を講じておく必要があります。
本格的な防音対策をするには、構造壁の下地材を剥がすなど、建物の骨組みまで手を入れなければなりません。ここでは賃貸経営としての費用対効果を考え、比較的少ない負担でできる防音対策をご紹介します。
話し声などの「空気伝搬音」に効果的な対策
「空気伝搬音」は窓の隙間などを通して音が伝わるため、遮音シートをテープ状にした遮音テープ(隙間テープ)を貼ることで隙間を塞ぎ、騒音を防ぐことができます。
完全に遮音できるわけではありませんが、コストもかからず手軽にできて、他の対策と併用することで効果を高めることができます。簡易なものは100円均一などでも販売しており、入居者自身が簡単にできる対策でもあります。
防音カーテンを入れておけば、空気で伝わる音を遮ることができるため、カーテンのある部屋で生じた音が外に漏れるのを効果的に減らすことができます。先述した「遮音テープ(隙間テープ)」と併用することによって、より高い防音効果が期待できます。
最近ではフェルトタイプのものもあり、プロでなくても設置のしやすい商品が増えている防音(吸音)パネル。軽くて壁に取り付けやすい上に吸音効果も高いため、手軽に防音性能をプラスすることができます。写真で紹介している商品は、圧迫感のない厚さでたった9㎜の吸音材。DIY 感覚で壁に取り付けることができ、反響音を抑制することができます。
窓から入ってくる音は、窓ガラスから伝わるものよりも、サッシの隙間から入り込んでくることが多いです。サッシと窓ガラス、両方の防音性能の向上が重要になりますが、密着性の高い内窓を設置することで、既存の窓とサッシの隙間を抜けていた音を遮ります。写真の商品は、既存のサッシや窓枠に傷をつけることなく後付けができるタイプの内窓です。
木造アパートの住戸を隔てる界壁については、比較的軽めな工事で防音効果を高められます。最もローコストな対策として挙げられるのが、単価の低い石膏ボードを二重張りする方法。より効果を高めるためには、薄くて性能が良い防音材を使用するのがおすすめです。例えば、2枚の石膏ボードの間に遮音・制振シートを挟む形にすると遮音性が向上します。
足音などの「床衝撃音(固体伝搬音)」に効果的な対策
より高い効果の見込める遮音フローリングなどの商品もありますが、価格はやや高め。そこで、よりコストを抑えて簡単に対策ができるのが防振・防音マット。単体での使用よりも、例えば厚さ数ミリのクッションフロア、フェルト、遮音制振マットを組み合わせれば、効果は増大します。組み合わせ方も様々なので、自分の状況に合うものを検討してみましょう。
入居者対応でできる事前対策
上記のようなハード面の防音対策以外にも、入居者対応といったソフト面で事前に対策をとることができます。
契約時に、賃貸物件で暮らすための生活マナーやそれらが順守できなかった場合の対応などを示した書類を入居者と交わしておきます。もし実際に騒音トラブルが起こり、発生者への改善や退去依頼を行うときの根拠としても有効です。同意書の内容については、管理会社や弁護士に相談するとよいでしょう。
定期借家契約は、契約期間が満了すれば入居者に退去してもらえる契約です。入居者が集まりにくいというデメリットはあるものの、もし騒音トラブルが生じた場合は契約期間終了後に退去を促すことができます。
騒音トラブルは人間同士の問題です。アナログに思えるかもしれませんが、日頃から入居者にあいさつをするなど、コミュニケーションを図っておくのも意外と効果的です。たいていの人は、顔見知りには非常識な振る舞いをしづらいもの。大家さんだけでなく、入居者間でも声掛けができるような環境をつくることで、良識をもって共同生活をする意識が生まれます。
まとめ
騒音トラブルが起こった時にするべきことや、騒音には様々な種類があること、音の伝わり方によって防止策は違うことをお伝えしてきました。
貸主には賃借人に対して「使用収益させる義務(民法601条)」があります。つまり大家さんには、入居者が平穏に暮らせる環境を提供する責任があるということです。騒音トラブルを放置すると、「使用収益させる義務」に反することになり得ますので、早急な対応が必要です。まずは現状把握からですが、常に客観的で平等な視点を保って行うようにしましょう。
騒音トラブルは発生しないに越したことはありませんが、もし発生してしまったときには、適切な対応ができれば、入居者の満足度を上げるチャンスにもなります。物件の防音対策を行うことはもちろん、日頃から入居者と良好な関係を築くこと、管理会社に任せきりにせず、大家さんも自らアパートの住環境に注意を払うことが肝心です。
防音に優れた物件を建てたい方へ!おすすめ企業をピックアップ
同社が開発した木造住宅高遮音床仕様『Mute50』は木造でありながら床衝撃音を一般的な鉄骨住宅に比べ約3分の1に軽減。スラブ厚270mm相当のRC造分譲マンションに匹敵する性能を実現しています。オプションとして採用できる「Mute45」については、床衝撃音は約4分の1 に軽減し、騒音ストレスは分譲マンションを超える性能を持っています。
楽器演奏愛好家に向けて、高品質な演奏環境を追求したコンセプト型賃貸住宅「音楽マンション®」。フルボリュームでCDを聴いてもほとんど漏れ聞こえない遮音性の高さを誇り、それでいて他社の重量鉄骨造と比べても、RC造ながら建築コストを抑えられる点も魅力です。圧倒的な差別化と希少性により、相場より約8,000円〜1万円の高い家賃設定を可能にし、高入居率を実現しています。
ここまで紹介してきた対策は、あくまでも手軽に導入できるものです。例えば、子供が飛び跳ねたときに出るような鈍い「重量衝撃音」は、建物の構造自体を変えなければ防音効果は出ません。防音工事の専門家への相談も含めて、費用対効果を見極めた対策を検討してみてください。
※この記事内のデータ、数値などは2021年6月30日時点の情報です。