賃貸オーナー必見!認知症対策に活用したい「任意後見」と「民事信託(家族信託)」とは

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公開日:2021年12月9日
更新日:2022年3月15日

親族を後見人に指名できる「任意後見」

権限に制約はあっても、クリアな財産管理が可能

本人の意思で、後見人を任意に指名でき、何をどう管理してもらうかという希望を契約書に盛り込むことができます。財産管理にかかわる事務手続きは任意後見人が行うことになります。

ただ、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して管理状況をチェックするため、大きな支出には理由が必要となる点は、法定後見と同様です。

「オーナーにとっては、法定後見と同様に制約は大きいですね。価値向上のための投資など積極的な賃貸経営はほぼできません」(岡田氏)

法定後見との違いは、どんな点になるのでしょうか。

「財産保護のための制約や、財産内容を開示しなければならないことなどは、法定後見と共通しています。しかし、経営の方針など本人の意思を伝えられることや、信頼できる親族を後見人に選べる点は大きなメリットです。何よりも、第三者が監督するので、仮に親族間に争いがあったとしても、公正に財産管理が行われる安心感は大きいでしょう」(佐藤氏)

任意後見の場合、契約を結んだからといってすぐに契約の効力が発動するわけではありません。本人の判断能力が衰えてから医師の診断書を取り、裁判所に後見監督人選任を申し立てて初めて、任意後見人として仕事が行えるようになります。

なお、家族が任意後見人になる場合は、報酬を辞退するケースが多いです。任意後見監督人が専任された場合は、法定後見人よりは低いものの、一定の報酬が発生します。東京家庭裁判所の管内の場合、管理財産額が5000万円以下の場合は月額1万円~2万円、同5000万円超の場合には月額2万5000円~3万円が目安となります。

本人と同居していない親族が任意後見人に指名された場合は、判断能力の程度に気づきにくいおそれがあります。そのため、定期的に判断能力を確認する「見守り契約」を併せて結ぶケースが多いです。また、財産の一部について管理委託契約を結び、先行して財産管理を行う例もあります。

「任意後見」のメリット・デメリット

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判断能力が十分あるうちに、本人の意思で後見人を決めて公正証書で任意後見契約を結びます。本人の判断能力が衰えたことを確認してから、後見人が家庭裁判所に任意後見監督人選任を申し立て、監督人が決定すると契約の効力が発動されます。

メリット:財産の保全や公正な管理に安心感

・契約書に後見人の事務範囲や本人の希望を盛り込める
・裁判所を通すため、本人の財産保全や権利保護の要請が働く
・第三者が監督するので公正な財産管理が期待できる

デメリット:毎月費用が発生、必要以上の支出は不可

・判断能力が低下しないと効力が生じない
・毎月の専門職報酬が発生。手続きにが煩雑な面もある
・資産運用・投資・自宅を含む不動産の売買は難しい

親族の同意が前提になる「民事信託(家族信託)」

賃貸経営に支障なし。事業承継もスムーズに

信託銀行などが事業として行う商事信託と異なり、免許がない個人間で信託契約を結べるのが民事信託です。このうち財産の受託者を家族が引き受けるタイプを家族信託と言い、「誰(委託者)が、誰(受託者)に、何(財産)を、どう管理するか(信託目的)」を定めた信託契約を公正証書で結びます。

信託目的に、賃貸経営に関わる権限を盛り込んでおけば、制約はほとんどありません。特定の不動産など、限定的に信託することもできる。信託契約を結べば、本人の判断能力の如何を問わず、すぐに効力が発揮されるのもメリットの1つです。

家族信託を組成する上でのポイントは、信頼して財産を託せる受託者がいるかどうか。その受託者が不動産賃貸業を行う能力と続けていく意志があることが前提になります。適切な受託者に判断能力があって、他の兄弟と揉めていないことも大切です」(岡田氏)

親族間に争いがある場合、受託者の管理に対して、他の兄弟から不満が出る可能性があります。

家族信託は、財産管理の内容に融通が利く半面、成年後見制度のような第三者によるチェックがないため、受託者のフリーハンドになるおそれはあります。信託契約の要件にはありませんが、遺言のように、財産の帰属に関して兄弟に争いがないように事前に決められていることが望ましいでしょう」(佐藤氏)

また、家族信託節税にはならない点も押さえておきたい。通常の賃貸経営では、賃貸運用による不動産所得のマイナスを、給与所得などの他のプラスと損益通算して所得税を節税することができますが、家族信託では、信託した賃貸物件の不動産所得がマイナスになっても損益通算はできないと定められています。

「売買や大規模修繕で大きな赤字を出して損益通算で節税するといった攻めの対策は、家族信託ではできません。財産や事業を守るものと考えてください」(岡田氏)

「民事信託(家族信託)」のメリット・デメリット

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財産目録、管理を任せる受託者と権限を決めて信託契約書を作り、公証人役場で締結。不動産の所有権は、委託者から受託者に形式的に移転され、登記簿に記載される。判断能力の有無にかかわらず、任意のタイミングで発効。

メリット:契約を結べば希望どおりの管理がかなう

・信頼する家族に財産管理を任せられ、報酬はかからない
・委託者の定めた目的で運用・処分もできる
・信託契約終了後の残余財産帰属先の指定で遺言代用機能も

デメリット:公正に監督できず、トラブルになるおそれ

・第三者が監督する制度がなく、公正な管理か判断できない
・親族間に争いがある場合はトラブルの防止がポイント
・専門家に契約を組んでもらうと費用がかかる

賃貸経営のみなら、法人に所有を移すのも認知症対策の一手

このほかに、判断能力の低下に備える方法としては、法人化も挙げられます。もともと資産管理法人は、所得税や相続税の節税対策として設立されるのが普通ですが、建物を法人所有にして家族に経営権をゆだねれば、認知症対策にもつながります。

ただし、土地まで移転すると譲渡税などの問題が起きるため、土地はオーナー名義のまま残すのが一般的。そこでオーナーが認知症になると、土地に関わる法律行為はできなくなります。

「本人以外の家族経営の法人では、経営側が揉めないことも必要です。また、土地は本人所有のままにしておくため、何かあったときに動かせません。基本的には売らない前提なら、隣地との境界確定などを除けば問題ないでしょう」(岡田氏)

複数手法の組み合わせもOK。各人に最適な認知症対策を

ここまで認知症対策について取り上げてきました。どの方法が向いているかは、賃貸オーナーの意向、財産規模や内容、家族関係などによって変わります。必ずしも1つに絞り込まず、組み合わせるのも有効でしょう。

「財産のうち一部を家族信託で誰か1人に管理を任せ、残りの財産は遺言で帰属を指定するなど、併用すると効果があります。家族信託と任意後見を併用することもできます。例えば、長男を任意後見人に指名して、投資用不動産の資産管理のみを家族信託にして次男に任せるようにします。そうすることによって、片方が暴走しないように、お互いを牽制しあうチェック機能を持たせた設計も考えられます」(佐藤氏)

どの手法にしても、財産目録を整理して今後どうしたいかを明確にすること、相続に関係する家族の理解や意思統一が欠かせません。

すでに相続対策をした人も、まだ着手していない人も、今一度内容を見直し、認知症への備えを含めて再構築することをおすすめします。

※この記事の情報は2021年11月4日時点のものです。

取材・文/本多 智弘 イラスト/アサミナオ

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