相続対策の基礎知識(2)~分割対策編~|最も優先するべき対策【不動産オーナー向け】
スムーズな引き継ぎのために、事前に財産の分け方を決めておくことは相続対策の最重要事項のひとつ。ここでは、遺産分割のために必要な手続きや方法を解説する。また、「遺言書」の重要性、正しく運用するための「家族信託」の仕組みについても紹介。(監修協力:フジ相続税理士法人/株式会社フジ総合鑑定)
不動産の「共有」は紛争のもとなので避ける
財産を残す人が2人以上いれば、相続税がかかるか否かにかかわらず分割対策は必要になる。どの財産を、誰に、どんな割合で、どのように分けるかを決めることだ。
もし、親が財産の分け方を何も決めずに亡くなれば、法的には法定相続分に応じた共有になる。その後も、遺産分割を行わないでいると、共有状態が続いてしまう。財産が現金だけなら、後で分けることも容易だが、不動産は厄介なので、避けることが定石だ。
例えば、以下で紹介する大家イチロウさんのケースのように、相続人が4人いて、不動産が3つだと、1人1つずつの単独所有に分けることはできないため、それぞれが共有持ち分を保有する形になる。
その状況で、長男が「アパートの空室が目立ってきたのでリノベーションをして入居率を高めよう」と提案しても、次男は「建て替えたほうがいい」、長女は「売って現金にしてほしい」などと意見が折り合わないと、何ひとつ実行できない。万一、長男が亡くなると、共有持ち分がその子どもに枝分かれし、ますます権利関係が複雑化して収拾がつかなくなる。
また、相続税の申告までに財産が分割されていないと、配偶者税額軽減や小規模宅地等の特例なども利用できない。後で分割できたときに更正の請求もできるが、いったん特例なしの割高な税金を払う必要がある。分割対策を第一に考えるべき理由がわかるだろう。
二次相続まで視野に入れた対策を
何通りかの分割案を検討し、それぞれの相続税額を試算することで、課題が浮かび上がってくる。配偶者が亡くなった時の二次相続まで視野に入れた長期的なシナリオを考え、将来に渡ってリスクとコストの少ないプランを検討するのが理想的だ。
遺産分割の手続きと方法を解説
年々増加している遺産分割に関する紛争
財産の分け方を決める手続きには、以下にまとめたように3つのパターンがある。
遺言:
被相続人が生前に最後の意思表示として残すもので、もっとも優先される
遺産分割協議:
遺言がない場合や、その内容に不備がある場合などに相続人全員で話し合うこと
遺産分割調停:
遺言や遺産分割協議でも決まらない場合に、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
実は、遺産分割をめぐる紛争が年々増えている(下図左)。この遺産分割事件のうち、遺産額が5000万円以下のケースが全体の7割以上を占める(下図右)。「うちは争うほどの財産はない」という考え方は通用しないといえるだろう。
財産を分ける手法にも以下の3つがある。
現物分割:
相続した財産をそのままの状態で分ける
換価分割:
相続不動産などを売却して取得した現金で分ける
代償分割:
特定の不動産などの現物を売却したくない、あるいは売却しにくい場合に、相続人のうち誰かが現物を引き継ぎ、他の相続人にその金額に応じた金銭を支払う
さらに、民法改正で新たに登場した「配偶者居住権」を活用する方法もある。
「共有」を避けるためにも、これらの手法をうまく組み合わせた分割方法を検討しよう。
Case study:代償分割の例
代償分割とは、不動産などそのままでは分けにくい遺産について、ひとりが相続し、それ以外の相続人に対してお金を払い(代償金)、平等にするという方法。
代償金の支払いは一時金型の終身保険を活用
保険金は相続財産に含まれず、受取人から直接分配できる。あらかじめ、代表者(長男)を受取人にしておくと良い。