あとで困らないために!事業収支計画の作成ポイント[プランニング#6]

安定したアパート・マンション経営を始められるかどうかに影響するのが「事業収支計画」です。パートナー選定や建築プランの作成、資金計画を立てる上でも重要なポイントを紹介します。

建築工事以外の諸費用も含めて総事業費を考える

建築パートナーの候補からプラン提案を受けるとき、ある程度の規模の建築会社やハウスメーカーであれば併せて事業収支計画書を添付してきます。

中小工務店では作成されないケースも珍しくありません。前者の場合はその中身のチェックをし、後者の場合はオーナー自身で作成する必要があります。

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最初に想定しておきたいのが「総事業費」です。不動産投資では「初期投資額」と言います。図1の通り、建築工事費だけでなく、諸費用もカウントしておかなければなりません。諸費用は、建設に関わる費用と賃貸経営の創業に関わる費用の2つに分けられます。

建設関連は各種委託費や申請費、税金、ローン関係費などで、創業関連は、開発負担金、近隣対策費、竣工前の入居者募集にかかる開業費などが挙げられます。

多岐にわたりますが、諸費用全体で建築費総額の10~15%程度と言われています。建築パートナー候補から提案された金額の内訳を調べ、図1で示したような項目が含まれているかどうかを確認しましょう。

この総事業費を基に、いくら融資を受けるか、自己資金はどのくらい必要かなど、資金調達方法を検討します。

住宅ローンの場合、頭金は購入価格の1~2割と一般に言われますが、賃貸経営の場合は一概に言えません。手取り収入を増やしたいなら自己資金を3~4割入れて借入金を抑える、相続税対策で評価額を下げたいならフルローンで借りるなど目的に応じて調整しましょう。

また、アパートローンの使途は建築工事費以外の諸費用も対象になるケースが多いようですが、金融機関によって具体的な内容が異なるので、個別に確認が必要です。

損益計算と収支計算の違いは減価償却費とローン元金の扱い

次に、建築会社などの建築パートナーから提案された事業収支計画の試算が適切か、採算性に問題がないかをチェックするための基本的なポイントを紹介します。

事業収支計画の中心になるのが「収支シミュレーション」です。これに関係する勘定費目を整理したのが図2で、帳簿上の「損益計算」と、実際の資金繰りを示す「収支計算」に分かれる点を、まず押さえておきましょう。

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※1 税引き前収支(Q)=不動産所得(C)-減価償却費(y)+ローン元金(z) ※2 税額:個人の場合は所得税・住民税、経営規模によって事業税がかかる。

両者は似通っていますが、大きな違いが「減価償却費」と「ローン元金」の扱いです。

損益計算では、現金支払いを伴わない減価償却費が必要経費に算入され、手元から出費のあるローン元金が含まれていません。一方、収支計算のほうは、減価償却費がなく、ローン元金が入っています。理由は目的が違うからです。

※損益計算の収益と収支計算の収入の内訳を見ると費目は同じですが、カウントの仕方が少し違います。収益のほうは、現金がすぐに入らない売掛金(賃貸経営では滞納なども対象)や手形などを含むのに対して、収入は現金の入りをカウント。収支シミュレーション段階では、両者を厳密に分けず同じものとして試算します。

損益計算は、「収益(売上)」から「費用(必要経費)」を差し引いて「利益」を出し、所得税・住民税などの税額を割り出す基になります。

図2の「不動産所得」が、賃貸経営における税引き前の利益です。そして個人の場合は、不動産所得を給料などの他の所得と合算(損益通算)して総合課税されます。

所得税は、所得金額が多いほど税率が高い累進税率のため、不動産所得のプラスが多いほど、税額は高くなってしまいます。逆に不動産所得がマイナス、つまり損失が発生した場合は、総所得が減って節税になるわけです。

収支計算のほうは、現金の出入りを追いかけることから「キャッシュフロー(C/F)計算」とも言われます。収入から支出を差し引いたものが「税引き前キャッシュフロー」、そこから損益計算で割り出した税金を差し引いたものが「税引き後キャッシュフロー」です。

後者には「手取り収入」「手元残金」「現金手残り」など、さまざまな呼び方があります。

ちなみに、収支計算の収入から運営費を差し引いた金額を「NOI(Net Operating Income:純収益)」といいます。不動産投資で収益物件を比較する場合は、初期投資額に対するNOIの比率である「NOI利回り」を指標にするケースも多いようです。

家賃設定、修繕費の内訳など収入と支出の中身をチェック

実際の収支シミュレーションでは、それぞれの勘定費目について長期間にわたる推移を試算します。最終的に「税引き後キャッシュフロー」がいくら残るか、賃貸経営の期間中にどのように増減するかをチェックすることがもっとも重要です。

ただ、建築パートナーの候補となる会社から出される収支シミュレーションは、きれいなプラスになるように描かれているケースが少なくありません。

かつてのバブル時代は、家賃収入が2年ごとに5%アップしていくようなバラ色の試算もありました。現在は、さすがにそこまで非現実的な設定は見かけませんが、家賃収入が30年間一定とか、サブリース(一括借り上げ)期間の10年分しか試算していない例もあります。

試算する年数は、少なくともローンの返済期間が終わるまで、20~30年以上はないと意味がありません。

収入と支出の各項目についてのチェックポイントをまとめたのが図3です。

たとえば収入項目では、相場より高めの家賃になっていないか、家賃下落や空室率が反映されているかなどを確認。「家賃下落なし/空室率10%」「家賃下落1年に1%/空室率5%」など、地域の賃貸市場や築年数に応じて複数のシナリオを作って試算しましょう。

家賃下落や空室率がどのくらいになると、資金がショートしてローン返済ができなくなるかなど、ストレスをかけた試算をしてみるのも役に立ちます。

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支出では、ローンの金利上昇リスク、修繕費の増加リスクなどがポイントです。金利変動は予測できませんが、仮に1~2%上昇した場合にどうなるかも把握できるように、設定条件を変えてみるといいでしょう。

修繕費に関しては、内訳を確認します。設備故障・損傷の補修については計上するのが一般的ですが、そこに設備更新などの定期メンテナンス費用、入退去に伴う原状回復費は見込まれているかどうかをチェックします。

また、5~10年以上の長期スパンで実施される大規模修繕の積立金は必要経費にならないため(※)、試算に入れていない例が多いかもしれません。積立金ありの設定にしておくほうが無難でしょう。

※賃貸住宅の大規模修繕にかかわる費用を全額損金に計上できる共済制度が2021年10月に認可され、2023年5月より販売開始となりました。長期修繕計画を立てた上で、賃貸関係団体が共同で立ち上げた「全国賃貸住宅修繕共済協同組合」の掛金に充てることが条件で、対象部位は「外壁」と「屋根」に限られます。なお、毎月定額で大規模修繕を含めたメンテナンスを委託する「分割施工方式」など経費化できる仕組みもあります。

文/木村 元紀

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