賃貸住宅建築のプランづくりに必須の敷地調査のノウハウ[プランニング#1]
賃貸アパート・マンション建築のプランづくりに入り始める前に必須のステップが敷地検査です。物理的・法的にどんな建物ができるのか、どう建てるべきかを知るための手続きを紹介します。
土地診断は無料?建築会社に任せたほうがいい?
「自分の所有している土地だから、好きなように建てられる」と思ったら大間違いです。土地の物理的条件や法的規制、周辺環境など、様々な制約に縛られます。それらを調べて、土地活用の可能性を探るのが「敷地調査」です。「土地診断」とも呼ばれています。
ハウスメーカーや建築会社では「無料で土地診断」と謳ったサービスを提供しているケースが珍しくありません。しかし、敷地調査の項目は図1~3のように多岐にわたり、実際には手間も人員もかかります。5~10万円程度のコストはかけられているはずです。
“無料サービス”は集客のための営業活動の一環で、建築を依頼すると設計料や工事費に上乗せされるものと考えておきましょう。また、測量や地盤調査は専門家に依頼しなければできないため、別途有料というのが一般的です。
実は、複数のハウスメーカーに土地診断を頼んでみると、調査結果が異なることも珍しくありません。自社製品を建てることを前提にした調査になりがちなため、マイナス情報を開示しない可能性もあります。
正確に調査をするには専門家の力が必要ですが、土地の所有者であり、賃貸事業の経営者でもあるオーナーとしては、客観的に判断できるように、多少は勉強して理解できるようにしておくことが大切です。
境界確定と測量は必須
まず、現況調査では、地積と地形を知ることが大切。「だいたい50坪くらい」などとおおざっぱに把握しているだけでは、建築プランはできません(図1参照)。
地積とは土地の面積を指しますが、古い土地の場合は、地積測量図などの資料がなかったり、登記所の公図と現況が大きく異なっていたり、正確な数値が得られないこともよくあります。
早めに測量の準備をしておいたほうがいいでしょう。測量費用は、土地の自然条件、境界標の有無、敷地が接する道路や隣接権利者の立合い人数などよって異なります。50坪程度の土地で数十万円以上かかる場合も珍しくありせん。
建築後に隣地とのトラブルが発生するのを避けるうえでも、土地家屋調査士に依頼して正確な地積を測量し、隣地境界を確定しておいたほうが無難です。
地積測量図があっても、ブロック塀の位置など、隣地の土地所有者と越境でもめている場合は、双方立ち会いによる境界同意書(境界確認書)の作成が必要です。
また、敷地の形状によって、依頼できる施工会社の種類も変わってきます。ハウスメーカーの企画型プラン(プレハブ工法)は、正方形に近い整形地を前提に作られているため、歪みの大きい台形や三角形などの敷地は向きません。
工務店では変形地でも対応できますが、狭小地は避ける傾向があります。狭小・変形などのハンディの大きい土地の場合は、建築家の出番でしょう。
地盤調査は自分で依頼し、無駄な補強・改良工事を避ける
現在、地盤調査は法律で義務付けられています。建物の基礎構造を決めるには、地耐力を調べなければならないからです(図2参照)。
地盤調査は、大きく分けて2種類あります。
1つは、一戸建てや小規模なアパートに向いている簡易地盤調査です。「スウェーデン式サウンディング試験」とも呼ばれ、半日で終わり、費用は5万円前後と言われます。
2つ目は、マンションなど重量の大きい建物の場合に実施するボーリング調査。1~2日かかり、費用も20~30万円かかります。
施工会社の中には、仕事を受注したいがために簡易地盤調査を、無料サービスや大幅な割引価格で受けるケースがあるようです。
しかし、施工会社経由で依頼する会社の調査は地盤改良工事を兼ねているケースが多いので要注意。地盤調査自体は無料~数万円で受ける一方で、50~200万円の地盤補強・改良に誘導する場合があるからです。
実際には、補強や改良工事の必要はなく「べた基礎」で充分という例も少なくありません。紐付きでない調査専門の業者に依頼するほうが賢明でしょう。
基本的な法規制はオーナーでも調べられる
法的規制は役所調査とも言われ、以前は所轄の役所や土木事務所などに出向いて、1~2日かけて調べなければなりませんでした。
しかし最近では、インターネットでかなりのところまでは調べられます。少なくとも都市計画法や建築基準法に関わる基本的な規制については、オーナーでも十分に調査可能です。法的にどのくらいの規模の建物ができるかくらいは、オーナー自身で把握しておきましょう。
⇒建築関連法規については詳しくは*「建築の基礎知識」編 第10番
ただ、自治体の条例や建築協定の有無、都市計画道路の状況などについては、概要はネットで調べられても、詳細については建築指導課などに行かないとわからないかもしれません。
条文の解釈について、担当者によって解釈が変わってくることもあります。最終的には、設計担当者が建築確認の準備として役所と事前協議するのが一般的です。
環境は目視でも把握可能。近隣トラブルを避ける事前の対策の検討も必要
自然環境や周辺の住環境については、ある程度までは目視でカバーできます。オーナーも自ら足を運んで改めて周辺を歩き、建築することを意識してチェックしてみましょう。
目視ではどうにもならないのが近隣対策に関わる部分です。アパート・マンション建築に当たって、近隣や自治会からの反対や抵抗に合うケースも珍しくありません。
たとえば、オーナーの地元以外で近所付き合いのない遊休地に、規模の大きなワンルームマンションなどを建てる計画は、日照やゴミ出し問題などで、自治会と揉めやすいからです。
自治会の反対で着工までに時間がかかり、事業計画が大幅に狂ってしまったり、近隣に配慮した設計変更を余儀なくされたりするおそれもあります。
まとめ
法規に違反していなければ建築許可は得られます。ただ、工事中の騒音、振動、資材搬入のトラックの頻繁な出入りによる安全問題などで周囲に迷惑をかけるのも事実です。
近隣トラブルを避けて、長期安定的な賃貸経営を目指すなら、早めに周囲へのあいさつ回りや自治会への根回しをして、建築計画の合意を得ておくことが望ましいといえます。
文/木村 元紀
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