【相続対策】賃貸経営の跡継ぎ問題解決の3STEP
節税偏重の相続対策が失敗するのと同様に、「賃貸経営の引き継ぎ」も税金にとらわれるとうまくいきません。単なる「財産分け」から「事業の橋渡し」へ、どうすればスムーズに賃貸経営を引き継げるのか。その成功への道筋を渡邊税理士に聞きました。
(一社)大家さんの道しるべ代表理事。この6月に大家さんのスムーズな賃貸事業引き継ぎを専門家の立場からサポートする「(一社)全国賃貸経営事業承継円滑化協会(REIFA)」を設立。渡邊氏自身、親からアパート経営を引き継いだ二代目大家さん。
引き継ぎで大事なのは「何を」ではなく「誰に」
賃貸オーナーの相続対策では、不動産という「財産=モノ」をどう移転するか、「何を」引き継がせるかに目が行きがちです。財産を目減りさせないことを主眼にしている人も多いでしょう。
しかし、アパートは単なるモノではなく、「事業を行う場」です。賃貸経営をとりまく環境が厳しくなっている今、事業の「引き継ぎ」「存続」という意識が欠けていると、長く安定した経営は難しくなり、結果として財産を失いかねません。
それを防ぐには「何を」より「誰に」を重視することが大切。つまり、賃貸経営の資質、やる気がある“跡継ぎ”を先に選ぶことです。この手順を踏まずに失敗した例をたくさん見てきました。後継者を決める前に、税務上の対策を優先して、経営が行き詰まったケースもあります。賃貸経営の引き継ぎには、親子の意識を変えることが必要です。相続対策を考える前に行うべき手順を紹介しましょう。
【STEP1】情報を開示して話し合う
誰が“跡継ぎ”としてふさわしいかを見極めるには、親子のコミュニケーションが欠かせません。単なる遺産分割のためなら「遺言」でも有効でしょう。ただ、そこには事業の真髄までは書かれていないのが普通です。
賃貸経営の引き継ぎに当っては、棚卸しをした資産の財産目録だけではなく、運営管理の状況、事業にかかわる専門家や協力会社などの人材まで含めた「財産管理表」を作ることが必要です。さらに、オーナーがこれまで蓄積した知識や賃貸経営に寄せる思い、理念も言葉にして「見える化」しましょう。それを早めに家族で共有するのです。
親の思いを一方的に伝えるのではなく、家族会議を開いて子供の気持ちも確かめます。「こんな空室だらけのボロ貸家はいらない」「収入が得られるアパートなら欲しい」などの反応があっても、この時点では誰に何を譲るかを決めるのは早計です。
「自分の死後をイメージできないから遺言なんて書けない」「経営理念なんて大層なものはない」といった人は少なくありません。ただ、長く頑張っている大家さんなら、賃貸経営で大事にしていることや戒めなどを掲げた「家訓」なら意外に書けるものです。そんな家訓を伝える話し合いをしてみてはどうでしょうか。また「家族会議なんて気恥ずかしい」「お互い構えてしまい本音が出せない」という場合、第三者である専門家やコーディネーターを入れるとスムーズに行きます。