【災害トラブルQ&A】台風で隣の家から飛んできた瓦で物件を破損!?もしもの時に備えて対策を
- 建物管理
自然災害発生時に起こりうるトラブルとは?また、対応時にはどんな法律が適用されるのか?今回は台風発生時の事例からQ&Aで久保原弁護士と伊藤弁護士が答えます。大規模な自然災害も頻発している現在、賃貸経営において災害トラブル対策は欠かせません。起こりうる事態を想定して、いざというときのために備えておきましょう。
- 強風などで物件が破損したら?
- Q1:所有アパートの隣家の塀が台風でこちらに倒れ、入居者に危険が生じたため、撤去しました。
- Q2:強風で隣家のレンガが飛ばされ、建物の窓ガラス・外壁が破損し、修繕が必要になりました。
- Q3:隣家の屋根瓦が飛んできて所有物件の部屋の一部が使用不能になりました。家賃減額を求められています。
- Q4:自己所有アパートが強風等で損壊し、隣家に被害を与えてしまったとき、どう対応すべきですか。
- 建設中の建物や、建物自体が消失してしまった場合は?
- Q5:新築工事中の施工会社から、台風のため工事の完成が大幅に遅れる見込みとの連絡がありました。
- Q6:大規模な災害により建物が滅失した場合に救済してくれる制度はありますか?
〈久保原弁護士プロフィール〉京都大学大学院法学研究科修了。2008 年、九帆堂法律事務所設立。最高裁で勝訴した更新料裁判では、首都圏で唯一の弁護団所属弁護士として様々な情報を発信。
〈伊藤弁護士プロフィール〉東京大学法学部、同法科大学院修了。2018年、九帆堂法律事務所入所。大家さんの代理人として多数の賃貸借案件を扱う。
強風などで物件が破損したら?
台風などで建物の一部が飛んでしまうのは、誰しもが起こりうる事態です。
隣の家から飛んできたもので自身の物件が破損したら?または自身の物件が破損し、隣家に被害を与えてしまったらどうすればいいのでしょうか?
Q1:所有アパートの隣家の塀が台風でこちらに倒れ、入居者に危険が生じたため、撤去しました。
A1:法的リスクがあるのは否めませんが、命に関わる事態ならば、まず安全を最優先してください。
災害が原因で隣の建物や設備が倒れて物件に被害が生じ、入居者の身体や生命に危険が及ぶ場合、危険を排除することが何よりも重要です。
塀がさらに傾き入居者が怪我しないよう、工事業者に依頼し塀を元に戻したり、場合により撤去・解体する必要があります。
隣家のオーナーが塀を所有している場合、本来は所有者である隣家のオーナーに撤去してもらうのが原則です。
しかし、生命や身体に重大な被害の発生が差し迫っている等の事情があれば、同意がなくとも危険を排除すべきです。この場合、法的には緊急避難として適法行為となり得ると思います。
災害等が原因で所有者に連絡がつかず、同意なく撤去をした場合、連絡が取れ次第、所有者に説明して事後承諾をいただきましょう。
Q2:強風で隣家のレンガが飛ばされ、建物の窓ガラス・外壁が破損し、修繕が必要になりました。
A2:一定の要件を満たせば隣家の占有者・所有者に対して損害賠償を請求できます。
建物や塀・看板等は工作物と呼ばれ、損害賠償請求の要件を緩めた工作物責任が定められています。
所有者らは工作物自体が有する危険に応じて、通常予想される危険に対し通常備えているべき安全性を保つべき責任を負うわけです。
工作物の瑕疵による損害について、過失があれば占有者が責任を問われ、占有者が無過失のときは、所有者が無過失責任を負います。
ある日いきなり外壁が剥がれて落下した場合、建物に原因があることは明らかと言え、基本的に損害賠償責任は認められます。
対して、強力な台風でレンガが飛ばされた場合、建物は通常備えているべき安全性を備えていたにもかかわらず損害が生じた可能性があるので、原因調査の結果によっては反論を受けることもあり得ます。
Q3:隣家の屋根瓦が飛んできて所有物件の部屋の一部が使用不能になりました。家賃減額を求められています。
A3:因果関係が認められる範囲内で、隣家に減額家賃分の損害賠償を求め得る場合があります。
家賃は建物の使用収益の対価として支払われるものなので、浸水や飛来した瓦が散乱したこと等が原因でその部屋が使えなくなった場合、使用不能の割合に応じて家賃の減額を求められることがあります(民法改正後は当然減額)。
隣家の工作物の瑕疵が原因で家賃の減額請求を受けた場合には、工作物責任に基づき隣家の所有者らに対して減額分の損害賠償を求めることができます。
同様に、窓や外壁等の修繕費用、部屋に散乱した瓦の撤去費用等も賠償を求める余地があります。
ただし、瑕疵と損害発生との間に因果関係が必要ですから、こちらの建物にも欠陥があり、隣家の工作物だけが原因といえない場合、損害全額を賠償してもらえるとは限りませんので注意が必要です。
Q4:自己所有アパートが強風等で損壊し、隣家に被害を与えてしまったとき、どう対応すべきですか。
A4:原因の調査、被害者への謝罪の他、保険の確認をするのがよいでしょう。
災害直後の初期対応としては、当然、人命の安全確保を最優先とすべきです。
事態が落ち着いてから、建物等の損害を最小限に食い止めるための対応を検討しましょう。
工作物責任・賃料減額等のリスクを考え、入居者や隣家から被害状況・原因について事情を聴取することが必要です。
その際、法的責任の有無にかかわらず、被害者には誠意をもって対応しましょう。被害発生の原因が明確でない場合、管理会社等に相談し建築の専門家の教えを請うことも一つの手です。
一般に災害による被害の場合、損害額が大きくなる傾向がありますので、早い段階で保険の適用の有無を確認する必要もあります。
いずれにしても、被害拡大を止めること、損害の範囲と原因を確定させることがポイントです。
建設中の建物や、建物自体が消失してしまった場合は?
物件を建てている時に台風が発生してしまう事もあるでしょう。工事遅延の際に施工会社の責任は?
また、物件自体が称してしまった場合などに適用される制度はあるのでしょうか?
Q5:新築工事中の施工会社から、台風のため工事の完成が大幅に遅れる見込みとの連絡がありました。
A5:遅延による損害は施工会社に賠償を求める余地があります。契約書を確認しましょう。
建物の完成が遅延すると、その期間分賃料が入らず、入居予定者が入居を止めて空室となるおそれもあります。
工期までに完成しなかった際の補償を定めた条項があるか、まず契約書を確認しましょう。工事業者に責任がある場合だけ違約金が生じる等の特約が定められている場合があります。
次に、遅延原因の確認が必要です。建築資材の搬送が遅れたり、作業員が現地に行けなかったり、建築途中の建物が天災で損壊して工程が増えた場合は、業者への責任追及が難しいかもしれません。
しかし、元々工事者の怠慢で工期に間に合わなかったのに、天災の発生を利用して遅延が自身の責任ではないかのように言っている可能性もあります。
この場合は損害賠償請求の余地があると言えます。
Q6:大規模な災害により建物が滅失した場合に救済してくれる制度はありますか?
A6:特に大規模な災害の被災地に関して,特別な法律の適用があるのでご紹介します。
借地借家特別措置法(被災借地借家法)は、政令で特に指定された大災害において、以下のような特殊な制度を定めています。
<(1)借家人の保護に関する制度>災害で滅失した建物の従前の賃貸人が建物を再築し、賃貸しようとするときは、その旨を従前の借家人に通知することで借家人が戻りやすくなり、コミュニティが維持されます。
<(2)借地人の保護に関する制度>借地人は公示なく6カ月間、掲示により3年間、借地権を対抗することができ、借地人の負担が軽減されます。
<(3)暫定的な土地利用に関する制度>被災地では5年以下で更新のない借地借地権を設定することができ、暫定的な土地利用の需要を満たします。
法務省ホームページにまとめられていますので、ご参照ください。
今回は、台風災害時などに起こりうるトラブルQ&Aを6つご紹介しました。
法律を利用したり、時には安全最優先で動くことが求められます。備えあれば憂いなしです。
OSネットでは他にも災害に関する記事や法律の記事も掲載しています。ご興味がある方は是非ご覧ください。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2019年12月11日時点の情報です。
イラスト/黒崎 玄